山田正紀「螺旋の月 上下 宝石泥棒2」

螺旋の月―宝石泥棒2〈上〉 (ハルキ文庫)

螺旋の月―宝石泥棒2〈上〉 (ハルキ文庫)

螺旋の月―宝石泥棒2〈下〉 (ハルキ文庫)

螺旋の月―宝石泥棒2〈下〉 (ハルキ文庫)

思考するコンピュータの開発を手伝う主人公の青年は、恋人が精神崩壊してしまったことに始まる一連の騒動に巻き込まれ、その中で異様に現実感を与えるシミュレータに遭遇する。その仮想現実の中で彼は異世界を旅する青年と同化し、異様な世界を旅することとなる。

常世界と異世界を行ったり来たりする、なかなか精緻に組み上げられた構成を持つ物語だが、内容の方は全く精緻に組み上げられず、山田正紀的アドリブ感に溢れたたいへんわけのわからないもので、非常に魅力的な作品に仕上がっている。日常世界の方は途中まではミステリー色が強く、非常にシリアスで落ち着いた雰囲気なのだが、ミステリーの核心部分はとんでもないことになっていて、非常に大きな脱力感が楽しめた。また、異世界の物語は、もうやりたい放題というか、筆の向くままと言った雰囲気で、なんでもありの雰囲気である。山田氏のことだから、おそらく大変な時間を使い綿密に構成し書き上げたものだと思うのだが、ここまでまとまりのない物語を作り上げることができるのは、これは巨匠的と言うしかない。なんだかよく分からないし物語も思い出せないような雰囲気ではあるのだが、相変わらず非常に楽しめました。ただ、これは山田氏の文章が好きな人以外には決して進められない作品です。