森達也「東京番外地」

東京番外地

東京番外地

東京拘置所松沢病院代々木上原東京ジャーミイ(多数の人が集まる機能を備えたモスクのことらしい)など、普通の人が決して足を踏み入れないのにすぐそこにある場所を、森達也と担当編集者が訪ね歩いた記録。

あんまり場所そのものの記述は多くなくて、むしろその場所を様々な角度から説明する記述が多く、よくあるまち歩きの記録とは一線を画している。東京拘置所での面会方法など、実際にやってみないと分からないことについての記述も多く、あまり役に立つかどうかはわからないがためにはなった。しかし、「下山事件」での色々な行き違いを解消出来ずにいたころにかかれたためか、なにか沈鬱で重々しい雰囲気の漂うエッセイが多い。なにも立っていられないくらいの二日酔いの日に、わざわざ両国の横網公園での空襲犠牲者慰霊祭に行かなくてもよいのでは無いかとも思うが、なにかその鬱陶しい雰囲気は読んでいて気分の悪いものではない。東京地裁で裁判を傍聴して痴漢事件の加害者の男性にどことなく共感めいた気分を憶えてしまったり、東京タワーに昇ればチープな水族館や蝋人形館に向かったりと、どことなくとりとめもない千鳥足的な記述が続くのだが、文章から読み取れるまなざしの向く方向はやはりとても森達也的で、静かにしみじみと訴えられる理不尽がそこにはにじみ出している。他の著書と比べればその声は格段に静かなのだが、たまにはこのような書き方も良いなあ。とりあえず東京ジャーミイには行ってみなくては。