森福都「狐弟子」

狐弟子

狐弟子

中国唐代を舞台とした奇譚集。見事な鳩胸の姉と美人の妹に翻弄される居候の男性の悩みと行動を描く「鳩胸」、髪結いを副職とする泥棒が経験した不思議なお話「雲鬢」、琵琶の師匠の入り弟子の男と師匠の嫁、そして師匠の母親にまつわるなんだかどろどろした物語「股肉」、狐を自称する和尚に狐にしてくれと弟子入りを頼む少年の話「狐弟子」、幽霊に取り憑かれた姉妹と近所の医者の息子のはなし「石榴缶」、絶え間なく災難に襲われ続けている娘と幽霊が見える男の話「碧眼視鬼」、二人して見事な腕前を持つ双子絵師に皇帝から出されたおかしな試練「鏡像趙美人」の計七編収録。

狐を自称するが全くのイカサマで、難題を解いてくれと言われるたびにどうしようかと思い悩むが適当にやり過ごす和尚が出てくる表題作が一番楽しめた。文章は乾いていてリズムが良いが、物語自体はなんだか生臭く、そのバランスが気持ち良い。また、幽霊憑きの姉妹と医師の少年の話も、幻視された時間の中で揺れ動く少年の歴史の描写がなんとも切なく楽しめた。このようなある種の無常観は「碧眼視鬼」の中でも打ち出されるのだが、こちらはもう少し騒がしい雰囲気で滑稽な雰囲気があり、それもまたよし。全体的には肉欲と愛欲にまつわる物語が多く、ちょっと脂っこいような気もしたが、その淡々とした筆致は物語を生臭くしすぎることなく、非常に流れよく美しい文章で語り上げている。このような中国中世に材を採った物語が好きであることは最近自覚したのだが、それを差し引いても良い小説だと感じたのです。