ロン・グーラート「ゴーストなんかこわくない マックス・カーニイの事件簿」

ゴーストなんかこわくない―マックス・カーニイの事件簿 (扶桑社ミステリー)

ゴーストなんかこわくない―マックス・カーニイの事件簿 (扶桑社ミステリー)

知り合いの古書店主から教わったことがきっかけで、ゴースト退治を趣味として行うようになった広告代理店勤務の男性が出会った、不思議な事件の数々を収録した短編集。

姪っ子のために恋人と目される男性のテレビにとりつき、如何に姪っ子が素晴らしい女性かを弾き語りで歌い上げるおじさんのゴーストや、自分の原作が脚本家によってめちゃめちゃにアレンジされたことに業を煮やし脚本家に嫌がらせを続ける作家のゴースト、ノームの金鉱の上に立てられてしまった新築住宅で絶え間なく起こるポルターガイストとそれにもめげずノームの金塊を手に入れることをもくろむ男性などが、ゴースト退治の対象となる。これからも分かるように全てのお話が極めて力の抜けきったどうでもよい雰囲気を漂わせとても気持ちが良い。お話自体は実にどうでも良く、登場人物達も本当に困っているのか多少疑問なくらいのんびりしているというか、ぼんやりした言動を繰り返すのだが、全体としてとても気持ちの良いオーラを醸しだし読んでいて非常にリラックス出来る。まあ、だからどうしたというか、別に続きが読みたくなるような本でも特にないのだが、ある種の質を保っているという意味でとても良い小説でした。しかし、裏表紙に示された原著の表紙は、なんともアメコミ風というか、クトゥルー風で、ずいぶん日本語版とは雰囲気が異なるのが気になると言えば気になる。原題は「ゴースト・ブレーカー」だから、本来はもう少しハードボイルドっぽい小説だったのかなあ。そういえば浅倉久志氏の翻訳も、会話文は紋切り調というか、切れが良く淡々とした口調になっている。でも話の内容は死んだおじさんが白黒テレビの中でヨーデルを歌い上げたりしているのだから、不思議なものである。