チャールズ・ストロス「アイアン・サンライズ」

アイアン・サンライズ (ハヤカワ文庫SF)

アイアン・サンライズ (ハヤカワ文庫SF)

AIが勝手に人類の9割を不思議な道具とともに宇宙のあちこちにすっ飛ばしてしまった未来で、ある星が謎の消滅を遂げるのだが、その消滅に関係しているらしい不思議な宗教的国家から命を狙われることになった少女が敵をやっつける話。

どうも最近のSFは僕の趣味に合わないのだが、本作も残念ながらあまり新しさや物語の面白さを感じることができなかった。物語の構成事態は極めて構築的であり、展開の早さや落ちの付け方もある程度は納得できる。しかし、いかんせん差し挟まれるSF的ジャーゴンや意味不明な科学用語がひっかかり、どうにも物語を楽しむことができない。翻訳者は訳者後書きで「基本的には雰囲気で読み飛ばしていただいてかまわない」と書いているが、なかなか読み飛ばすのも難しい。これは自分の理解力の問題なのか、それとも翻訳の問題なのか、そもそも意味のあることが書かれていないのか、気になって仕方がない。よくよく考えるとそのような細々としたことは物語の本質には確かに関係なく読み飛ばしても問題ないと思われるのだが、それなら書かなければ良く、もしくは書かない方が良い作品だったと思われる。最近このような意味不明の言葉に良く遭遇し気持ちが悪くなってしまうのだが、なぜ気持ちが悪くなるのかというと、それらの意味不明な言葉が作者の頭の中だけで完結し、そこから伝わってくるものが無い、もしくは感じられないからなのではないか。非常に閉鎖的で内向的な独白の世界は、人に何かを伝えることを目的とした作業においては重大な欠陥ではないかと思うのだが。もしくはこの世界を自分だけの納得の方法で「理解」したと感じたとすれば、それもなにか非常に危険な行いのような気がする。物語の筋事態は悪の帝国に少女が立ち向かうというまっとうなもので、全知全能のAIのあまりの手際の悪さに疑問は残るが、基本的には楽しめそうなものだけに、なんだかもったいないなあ。