コニー・ウィリス「最後のウィネベーゴ」

最後のウィネベーゴ (奇想コレクション)

最後のウィネベーゴ (奇想コレクション)

ジェンダーの垣根を劇的に低下させる試みがなされている社会で、娘が月経を人工的に停止させる事を教義とする団体に加入するしないで大もめにもめる家族の話「女王様でも」、タイムマシンと欲求不満の中高年男女の組み合わせが繰り広げるSF喜劇「タイムアウト」、超過密日本製宇宙コロニーで宇宙人に自宅の一部を占領された女性の悲喜劇「スパイス・ボグロム」、そして動物の異常な絶滅傾向のため国家的に動物愛護体制が敷かれたアメリカに置いて、最後のRV車を取材した男が思い出した過去に関する話「最後のウィネベーゴ」の4編収録。


それはコニー・ウィリスなので、面白くないわけは無いのだが、やっぱり抜群に面白かった。どれもこれもおもしろおかしく、そしてもの悲しく良かったのだが、一番のめり込んで読んだのは「スパイス・ボグロム」。これは単なる不条理コメディーであり、主人公は婚約者から半ば押しつけられるようにして宇宙人を自宅であるマンションの一室に収容することになるのだが、そのマンションは階段の一段ごとに賃貸契約が結ばれているような超過密状態、宇宙人は構わずおみやげを買いあさり、婚約者は窮状を全く理解してくれない。そうこするうちに異常に独占欲の強い少女二人に告げ口をされて追い出されそうになり、とにかくさんざんな目にあう。展開自体は極めて典型的というか、落ちるところへ落ちてゆくのだが、読んでいるうちにどんどん主人公の悲惨さに目が離せなくなり、それが最終的に幸せな結末を向かえた時に感じるカタルシスは、異常なまでに深く衝撃的なものがあった。この、この先はどうなるのかと期待と同時に不安になってしまう展開は、やはり気持ちが良いなあ。なんというか、見てくれとしては全く新しくないのだけれど、切れ味のある物語の構築は細部のあれやこれやの目新しさを全く問題とすることなく、勢いよく言葉のつらなりを頭にたたき込んでくれる文章がここにはあるのです。大森望氏には、今後もどしどしとコニー・ウィリス氏の短編を翻訳し続けてもらいたいものだ。