エリザベス・ムーン「明日への誓い 若き女船長カイの挑戦」

明日への誓い―若き女船長カイの挑戦 (ハヤカワ文庫SF)

明日への誓い―若き女船長カイの挑戦 (ハヤカワ文庫SF)

第1巻では宇宙軍士官学校を放り出されて大変な目に遭い、第2巻では親族が皆殺しにされた女性の宇宙船船長が、本巻では海賊に対抗するために武装宇宙船の同盟を作ろうともくろむが、あまり上手く行かない話。

第1巻は主人公の成長物語、第2巻では宇宙船を舞台にしたアクション物語であったのに対し、本巻はいくつもの宇宙船にまたがる政治的アジテーティングの実践物語になっていた。各巻ごとの特徴が極めて良く出ているのは、どのようなお話にするのかあまり考えずに書き出したため、各巻ごとの特徴をその場その場で考え出す必要に迫られたためだろうか。それにしては、登場人物の性格と言い、伏線の張られ方と言い、実に上手に構築されていて本当に驚いた。なにか、アドリブの部分と作為的に構築された部分が非常にほどよく混ぜ合わされていて、意外感と安心感が同時に楽しめる。また、何となく感じるのは、この物語は基本的に古典的なスペースオペラ的SFと分類されて構わないと思うのだが、極めて軍事小説的だということである。いつも思うが、スターウォーズアメリカ空軍を戯画化、賛美化した物語であったことにも通ずる、SFの基本的な骨組みを見る気がして面白くもあり、興醒めでもある。しかし、本作は単なる疑似戦争物語にとどまらず、極めて行政組織と法制度に物語の根幹が立脚しているという点で、物語の白々しさを巧妙に回避している点が特徴的だと思う。この、主人公がいちいち自分の宇宙船の所属で惑星政府とやりあうやりとりは、一般的なSFであれば描写することもありえないとおもうのだが、そのまどろっこしいやりとりが、なんともまた楽しく感じられ面白い。物語のテンポやリズムは相変わらず好調で、読み出したら本を置くことが難しい、良作です。