マイクル・イネス「アララテのアプルビイ」



イギリス人の警察官アプルビイ氏の乗り込んだ客船が外洋を航行中に大破、逆さまになったキャフェテラスで他の数人の乗客とともに漂流し孤島に流れ着いたアプルビイ氏は、そこで奇妙な人びとと殺人事件と冒険小説と戦争行為に直面する。

なんだかずいぶん難しい。登場人物は掛け合い漫才のように上滑りした台詞をぶつけ合うのだが、その台詞はなにか視点がずれていて、会話はミートするわけでもなく三塁線を転々と転がって行くファールボールのような奇妙な間の悪さを感じさせる。それでも面白くないわけではなく、全く予想だにしない方面へ転がって行く物語は結構興味を引き込む力強さがあり、ぐいぐい最後まで読み進んだことも確か。しかし、この面白さは、この文面から何かを引き出そうとする人、もしくはそのような努力が好きな人にしか耐えられないのではないか。また、そのような努力をすると言うことは、その文面の中に引き出すだけの何かがあることが重要だが、それは必ずしも担保されているとは言い難い。なぜならこの小説は明らかに(たちの悪い)冗談だからである。教養人には面白いと思われる小説だが、それ以上の物ではない、とは言い切れないところが、このような頭の良さそうな小説のたちの悪いところである。古典として図書館の棚にあれば、それで良いという感じがした。正直、よくわかんないんだよなあ、面白さが。