ジェームズ・アンダーソン「血染めのエッグ・コージイ事件」

血染めのエッグ・コージイ事件 (扶桑社ミステリー)

血染めのエッグ・コージイ事件 (扶桑社ミステリー)

1930年代のイギリスを舞台として、上院議員で銃器マニアの伯爵が、郊外に位置する彼の邸宅に種種の客人を招いてパーティーを催すのだが、招かれた客の中には外交上の打ち合わせのために訪れた者やテキサスの石油王や若き雑誌寄稿者など、なにかなぞめいた人びとが存在し、必然的な雰囲気を感じさせつつ殺人事件が発生する話。

何とも古色蒼然たる雰囲気でなかなか興味深い。物語の構造や設定など、極めて典型的な「カントリーハウス・マーダー・ミステリー」を現代に蘇らせたとその帯に謳われた本書は、しかしその文章の本質において現代的であるところが面白い。決して理解不能な文化的・道徳的価値観に基づいた会話が延々と繰り返されることもなく、なにかフレームで切り取られた過去の世界を覗きながら物語を読んでいるような、そんな気分が楽しめる。物語の内容としては、謎めいたいくつかの物語が語られた後、登場人物が勢揃いし、その夜に一連の騒動がおき、開けると死体が発見されるというもの。夜の一連の騒動の人称をつぶさに検討すれば、だれが犯人で誰が虚偽の人物像を割り当てられているのか、ある程度あたりがつくとは思うのだが、面倒くさくてまじめに考える気がしなかった。でも、物語としては面白く、ある種の意外感と探偵の性格の素直さには好感を持った。しかし、いかんせん古くさい、というか新し味が全く感じられないことは否定ができない。