山本七平「「常識」の研究」



タイトル通り、「常識」とされている事へのもう一歩踏み込んだ論考。しかしここでの常識は、中東情勢やイスラエル情勢などにかたより気味であった。

著者の名前は色々な場所で目にしてはいたのだが、著作を読むのは本作が初めて。エッセイをまとめたものらしく、面白い文章もあれば大して面白くない文章もあるが、概してまじめに書かれているなあと思われるものは極めて示唆的で質が高い。全体は5部構成で、「国際社会への眼」「世論と新聞」「常識の落とし穴」「倫理的規範のゆくえ」「島国の政治文化」で、「国際社会」ではまるで知らなかった建国当時のイスラエルの宗教的状況が解説されとても勉強になった。「新聞」では日本の世論の「感情の充足」に傾き「時の審判」的発想のないありかたや、新聞が不偏不党であるという建前について強烈に批判が展開され小気味よい。「常識」の章では、おそらく基本的には保守主義的な立場からの常識論が展開されるが、これはあまりよくわからない部分が多い。「倫理的規範」「政治文化」は、これはおそらく色々なところで語られた言葉をざっとこの章に集めたのではないかと思われるくらい、それぞれに関連が感じられずなんだか読むのが大変。素敵なことを語っている文章もあれば、老人の繰り言のような文章もあり落差が大きい。全体的にはずいぶんまっとうなことを堂々と述べているなあと言う感じがしたので、機会があればほかの論考集も読んでみようと思う。