トニーノ・ブナキスタ「隣のマフィア」

隣りのマフィア (文春文庫 (フ28-1))

隣りのマフィア (文春文庫 (フ28-1))

内部告発したために証人保護プログラム下で保護されフランスの片田舎にこっそりと引っ越してきたニューヨークの元マフィアの元締め一家が、そのマフィア的な生活習慣とフランス片田舎の生活風土との違いから様々な騒動を捲き起こし、最後は大変なことになる話。

傑作でした。読み始めの雰囲気からは、面白いけれどもあまり華やかな物語の展開は予想されず、なんだか中だるみしそうだなあと思ってしまったのだが、少し読み進むに連れその異様な雰囲気にすっかり巻き込まれぐいぐいと読み進まされた。話自体の結末は中盤くらいには予測がつき、その内容よりはどのようにその結末にたどり着くのかが本作の目玉かなあと思っていたのだが、最終的な展開はその予測を見事に覆す、祝祭的で狂騒的、ある種破れかぶれの書きたい放題にも思える、最高にファンキーで楽しい結末でびっくりした。全体的な構成は結構力任せな癖に、物語の細かい点で非常に気が利いていて笑えない冗談に満ちあふれている点も、さすがフランス人作家であると思わされた。特に、一家の長男の男の子が作成した、学校の新聞に掲載された卑猥な単語が答えとなるクロスワードなど、思わず笑い声を上げずにはいられない。また、語りの方法も極めて巧妙である。始めは三人称で語られる物語には、進展に従い元マフィアのお父さんが執筆しはじめたどうしようもない自叙伝がたびたび差し挟まれ、最後はその自叙伝の語りが物語の結末をつけるという形式を持つ。読み終わった時に背筋が寒くなるような興奮を憶えたのは、この語りの構造に拠るところが大きいと思う。邦題はなんともぱっとしないタイトルだが、切れ味も爆発力も期待を見事に裏切る凶悪な物である。原題「マラヴィータ」の方が良かったかも知れないなあ。これは、最後まで読めばとても良いタイトルだとわかるのだが。それでは売れないのか。