グレッグ・イーガン「ひとりっ子」

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

人間の存在に関わる(らしい)SF短編集。妻を殺した男への復讐譚「行動原理」、愛し合う二人がその時間を失わないために取った究極の手段に関する「真心」、物凄い技術を悪い会社から奪われないようにする二人を描いた「ルミナス」、なんだかよく分からない「決断者」、他者との距離を究極までに縮める試みを描いた「ふたりの距離」(これは馬鹿馬鹿しいが面白かった)、平行世界の話なのだろうか「オラクル」、特殊な養子を育てる夫婦を描いた「ひとりっ子」の計7編収録。

解説が奥泉光氏なので手に取ったのだが、解説が一番面白く、それ以外の部分を読むことは大変な努力と、時間を無駄にしているのではないかという悪い予感、そしてそれが的中した寂寥感が必要とされ、消費された。物語の本質は奥泉氏が語っているとおり、あまりにも「身もふたもない」「胸苦しいまでに悪夢じみ、痙攣的な呼ぶ」感性である。つまり、といってしまって良いのかは分からないが、結構馬鹿馬鹿しいことを、SF的舞台を用いることによって究極的に戯画化しているとでもいうような、なんともご苦労様というか、この努力をすればもっと面白い物語を思いつけるのではないかと思ってしまうような雰囲気がある。しかし、最大の印象はその全く理解することができず、また理解する努力さえ喚起されない冗長な数学的、または物理的記述にある。この稚気に溢れた記述は、それが意味を持っているのかいないのか、始めのうちは気になるのだが、途中で全く気にならなくなってしまうほどに馬鹿馬鹿しくもの悲しい。思い起こされるのは、大学に入り立ての理系の学生が、持てる知識以上に背伸びして議論しているうちに、自分は一体何について議論をしているのか、そもそも自分は相手と意見が一致しているのかいないのか、判然としなくなってしまうような状況にも似ていて、なんだか恥ずかしく思い出すとともに鈍い頭痛のような、うんざりする感覚に襲われた。文字を追っていること自体が無意味なような、極めてシュールな体験が楽しめます。