斎藤美奈子「文壇アイドル論」

文壇アイドル論 (文春文庫)

文壇アイドル論 (文春文庫)

村上春樹村上龍吉本ばなな俵万智(以上敬称略)ら、文壇の中でほとんど「アイドル」とも言える地位を確立した人びとは、どのようにして見出され、その地位を確立し、そして消費されていったのか、またはどのような消費に対する衝動や欲望がその時代に存在したのか、多少角度をつけた視点と口調で分析・解説したエッセイ集。

相変わらずの斎藤美奈子氏というか、基本的には対象を突き放し、読みようによっては馬鹿にしたり罵倒したりしているようにも読める(そしておそらく実際はそうではない)口調で小気味よく議論を綴ったもの。読みやすくわかりやすく痛快で、とても楽しめた。内容的には非常にうなずける議論が多く、例えば村上春樹氏に関しては、そのマーケットに対する受けの良さと同時に「文学プロパー」達への受けの良さを「村上現象をめぐる謎」と名付け、書き手よりはむしろ書き手を取り巻く読み手に対して、ある種の冷たい視線を持って分析を掘り下げて行く。これは僕には結構腑に落ちる議論であって、なんで村上春樹氏をみなあそこまで得々と語るのか全く分からなかったのだが、この議論を読んでなるほどと思うところが非常に多かった。面白いところは、斎藤氏の議論は作家の創作したテキストからはじまり、次にそれがどのように受容されたのかと言うことを論じてゆくのだが、それは必然的に「どのようなテキストが必要とされたのか」という、ある意味レトロスペクティブなマーケット分析とも言える構造を持っていることで、これはマーケットの一部である自分の趣味までもが俎上に載せられているような気がして落ち着かないことこの上ない。しかし、それは結局作家を突き放す議論ではなく、その作家がなぜ必要とされたのかという視点から世の中を笑い飛ばす議論になっているような気もして、全体としては非常に作家に対して好意的と言うか、援護的な議論であるような気もするのである。結果として、結構それぞれの作家については痛烈に批判しているような気もするのだが、読後感としては取り上げられた小説がなにか読みたくなっているという、不思議な気分を味わうことになった。これが良いことなのかよく分からないのだが、少なくとも不愉快ではない。しかし、なにか釈然としない気分がすることも事実なのである。でも全体としてはとても面白く、相変わらずとっても楽しめた。