南條竹則「鬼仙」

鬼仙

鬼仙

鬼や幽霊にまつわる、中国の古典に材を取った短編6編を集めたもの。町の役所にとりついた女性の幽霊の話、神降ろしで出会った女性と書生との不思議なすれ違いの話、前世は汚職官僚だった犬の話、料理研究家の元に就職した少女が作る鍋の話など、相変わらず不思議な足回りの軽い文章で、肩の力が抜ける良作揃い。

久しぶりの新作で大変に喜ばしいが、相変わらずの極上のお話揃いで瞬く間に読み終わってしまい、なんとももの悲しいことこの上ない。表題作「鬼仙」は、役所にとりついた女性の幽霊が、気の利かない官吏をやっつけたり、気に入った役人を手助けしたりするある種の任侠話で、とてもすっきりとした終わり方をする。次の「夢の女」も幽霊の女性と書生の物語なのだが、これは物語が不思議な展開を見せ、主人公とは全く関係ない人物にその焦点を映しながらとてもはかなく切ない終わり方を見せる。ここまでですっかり静かで落ち着いた気分になったのだが、次の「犬と観音」の出だしには思わず吹き出した。「吾輩は犬だ。わんわん。/野良犬だ。駄犬である。」こんな調子で続く意外に結構深刻な物語なのだが、基本的には「吾輩は猫である」のパロディーでとても良い。最初と最後だけしかパロディーになってはいないのだが、南條先生の語り口が久々に炸裂というか、小気味よい上滑りと隅々まで構築された口調がとてつもなく心地よい。次の「小琴の火鍋」は、これぞ南條先生の本領発揮と言うべきか、中国食道楽系のきらびやかな物語で、これもなかなか味わい深い。その後に収録された2編の歴史調のエッセイも格調高くもありリズムも良く、極めて味わい深い一冊でした。この次はいつになるのか、待ち遠しいなあ。