平石貴樹「スノーバウンド@札幌連続殺人」

スノーバウンド@札幌連続殺人

スノーバウンド@札幌連続殺人

札幌のある少女が誘拐されたと思ったら、誘拐先で誘拐実行犯が殺されてしまい、その後当事者達にまつわる人びとの間で次々と自殺もしくは他殺と目される死亡事件が発生、その錯綜した事象の流れを車いすの弁護士が整理し、なおかつ事件を解決しない話。

寡作で知られる(そもそも知られていないか。。。)平石貴樹氏の最新長編。待っていた甲斐はあり、相変わらずの不思議な雰囲気を漂わせた、切れ良く後味の悪い素敵な探偵小説でした。語りは当事者達が順々に一人称で彼ら彼女らが体験した事件の一部を後日談的に語って行くというもの。ギリシャ悲劇的な語りのスタイルを採用したのかとも思ったのだが、やはり作者らしくこの語りの方法から虚実を紡ぎ出すという手法で、読み手を惑わしてゆく。文章も相変わらずの紋切り調で、どことなく違和感がある彼独特のもの。やはり一人称という方法は面白いものだなあと感じてしまうのだが、一人称での語りは、語り手にとっての真実が必ずしも現れているわけではない。なおかつ一人称が集合的に語られることによって、語り手に取っての真実と嘘が重層的に重ねられ、そこから何かしらの「真実」らしきものが見えてくるのだが、最終的に採用される「事実」とは、それとは全く異なるものなのである。「語り」を意識的にねじ曲げることにより、それとしられた「真実」を脱構築し、新たな世界を見せてくれた小説には、例えば久間十義氏の「聖マリア・ラプソディ」があるが、本作にもそれになにかしら通じる、事実を「ありのまま」に伝え聞くことの不可能さと、やはり事実とは構築されるものなのではないかという思いが感じられるのである。そういえば、探偵小説のある種の枠組みと言えば、「名探偵」がそれと知られた「事実」を「推理」でもってひっくり返すことにあるのだから、そういう意味では本作も極めて推理小説的と言って良い。文章は相変わらず素っ気ないほどに簡潔で、無駄なく爽快。