山田正紀「篠婆 骨の街の殺人」

篠婆 骨の街の殺人 (講談社ノベルス)

篠婆 骨の街の殺人 (講談社ノベルス)

推理作家になりたい男が、知り合いの編集長にむりやりトラベルミステリの舞台にせよと指令を受け、山奥のまち篠婆に向かう道すがら殺人事件に巻き込まれ、その解決をもくろむうちに篠婆の街の陶芸の秘められた歴史に感づく話。


トラベルミステリなるものがいかなるものかよく分からないのだが、鉄道や時刻表を見比べながら特殊な乗り換えを行うことによって存在するはずの無い場所に存在することができるという現象を物語の仕掛けの中心に据える一群の小説群の事だとするのならば、これほど苦手とするところもない。とにかく、成立が始めから約束されている現象を、作者の語り口のみにすがりながら追いかけるという趣向がいかにも苦しいし、そもそも地図や時刻表を見ること自体楽しいことではない。しかし、本作はやはり山田正紀氏らしく、タイトルの下に書かれた「超本格トラベルミステリ」という言葉を真っ向から裏切る、何とも奇妙な変奏曲とも言うべき作品でとても楽しめた。


物語の鍵になるのは「自分が死んでいることを気がついていない男」であり、また作中の登場人物はそれぞれがどうしようもないコンプレックスを抱え、そのコンプレックスごとに「オズの魔法使い」の登場人物に割り振られる。この、突然「オズの魔法使い」との重ね合わせが飛び出すところがなんとも山田氏らしく、物語を不必要に陰鬱に、そしてぎこちないものにさせていてとても楽しい。やたら語尾に「ー」や「…」が多用される歯切れの悪い文章も、他の人が使うと腹立たしいのに山田氏が使うと彼一流の世界を作り出してしまうのも不思議。「シリーズ第一弾」と銘打たれ、作中でも何部作にもなるかの伏線が描かれながらその後全く続編が出てこないのも面白い。