ジェフリー・ディーバー「エンプティー・チェア 上・下」

エンプティー・チェア 上 (文春文庫)

エンプティー・チェア 上 (文春文庫)

エンプティー・チェア 下 (文春文庫)

エンプティー・チェア 下 (文春文庫)

重度身体障害者リンカーン・ライムと相棒サックスは、ライムの治療のためにノースカロライナに赴くが、そこで少年が犯人と目される殺人事件と拉致事件に巻き込まれる。そのうちにサックスが事件に深入りしてしまい、果ては警察に追われる羽目になる。


文庫で上下巻が出ていたので買ってみました。もう一冊単行本で新作が出ていたけど、最近の読書量の増加傾向の前には単行本を買うことがためらわれる。せめて、読むものがあるうちは文庫本で命をつなぎたい、そんな毎日です。この作品に関して言えば、なんだか途中で馬鹿馬鹿しくなってしまった。なんだかこの作家の作劇法が見え透いているというか、面白くないんだよなあ。基本的には主人公を窮地に陥れ、しかしそれは何らかの方法で回避され、回避されたと思ったら次なる窮地がまきおこるというプロセスが繰り返えされる。全体的な構築はもちろんあるのだろうが、この展開があまりにも陳腐化してしまい意外感が全くなく、物語の筋を追う気も無くなってしまう。


一方で、この作品に関して言えばそれが過剰にすぎると言うところが特徴なのかも知れないが、このような作劇法が優先されるあまり、登場人物は作者の計算され尽くしたタイムスケジュールの中で演技を行う、まるで操り人形のように感じられてしまい、そこに描かれる感情や特徴は、登場人物表からコピーペーストされたもののように読めてしまう。つまりアニメ的というか、ハリウッド的というか、そのような感じ。誰がどう裏切ろうが、だれがどのような思いを抱いていようが、それは意外と言うよりは作者の強引なシナリオが見えてくるにすぎないと、感じられてしまうのです。あとね、いかに物語の要請だとしても、人を撃ち殺したことを後悔する人間が、その撃ち殺した人が犯罪者であったことを後から知って心から安堵したりするのかなあ。なんだか気持ちが悪いし、恐ろしいよ。