森福都「長安牡丹花異聞」

長安牡丹花異聞

長安牡丹花異聞

唐の都長安で光る牡丹を軸に金儲けをたくらむ少年と青年を描いた表題作を始め、パンダのような容姿の切れ者査察官が皇帝への献上競技によって大量虐殺犯人を捕まえる話「累卵」、科挙試験の不正を潜伏して暴く男を描いた「チーティング」安禄山の乱のどさくさを駱駝の目から描いた「殿」など、中国を舞台にした6つの短編を集めたもの。


相変わらず静かで落ち着いた文章で、揺れ幅の大きな着想を持った物語を描き出す、ダイナミックな短編集。なんでいままできちんと読まなかったのだろうと思うのだが、これはとても面白い。基本的にはミステリー的な着想を持つところも趣味に合う。あまりネットでは目にしない著者だが、最近は隣に並んでいる森絵都と間違えて買ってしまい、読んでみることになる人も多いのではないのかなあ(僕と同じように)。


もとい、リズムもテンポもよく、会話文の抑制された雰囲気も良い。中国の歴史は全く忘れてしまったが、なんとなく歴史的背景もよく計算され使われている気がする。最近の作家にしては珍しく、文章に漢字が多く、まるで漢文の書き下し文を読んでいるような気になるところも素晴らしい。突然駱駝を主人公にしてしまったり、なんだか訳が分からないところもあるがそれもまた良し。残念なのは文庫で手に入る作品が少なく、あらかた読み尽くしてしまったことである。まあ、でもこんなに良質な物語を描く人ですから、きっとすぐに人気が出て文庫も大量に出版されるでしょう。楽しみに待っていよう。