エリザベス・ムーン「復讐への航路」

復讐への航路―若き女船長カイの挑戦 (ハヤカワ文庫SF)

復讐への航路―若き女船長カイの挑戦 (ハヤカワ文庫SF)

宇宙士官学校での不始末のため宇宙の運送業務にすっ飛ばされた主人公が前巻での大騒ぎを無事収束させ、さあいよいよ目的地へと思った直後、実家が何者かに爆撃され一族郎党ほとんど死滅してしまう。遠隔地にいるために状況がよく分からない主人公は、それでも残った一族と合流し旅を続けようとするのだが、それでもやっぱり厄介な状況に足をつっこみ血みどろの格闘戦を繰り広げてしまったりする。

前作とは時間的な経過はほとんど無いという設定なのだが、いきなり前巻での主要人物達がほとんど殺されるのにはびっくりした。この作者はなかなかただ者ではない。物語自体も読んでいる間が山あり谷ありのテンポ良く映画的に展開する流れの良い構成なのだが、よくよく考えると前巻から引き続いて回収されていない伏線もある。これは勢いで書き飛ばしているのか、それとも周到に物語を構想し書き込んでいるのか、おそらく前者だと思うのだがそれでも全く無理が感じられない。最終的にやっぱりえいやあで悪い船長をぶち殺して終わるところはなんともほほえましくもあるのだが、しかしこの物語全体の構築感の無さと、それを全く感じさせない各巻ごとの構成力は、なかなか心地よく読み応えがあった。全体的な流れとして、ある程度の(ページ数的)間隔をおいて主人公が危機に直面し、それを基本的には難なく片づけるという構成なので、非常に水戸黄門的予定調和の世界で決して手に汗握らないのだが、それでもぐいぐい読ませるのは作者の力量かそれとも訳者の上手さなのだろうか。雰囲気は明るいくせに劇中の出来事が極めて陰惨であるところを含め、非常に良くできたシリーズです。相変わらず装画の趣味は破滅的ではあるのだが。これでようやく店頭に並んでいる第3弾に追いついた。