冲方丁「マルドゥック・ヴェロシティ1/2/3」
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基本的には戦時中にいろいろあって身体に戦闘的改造を加えられた人々の一団が、戦争の終結とともに大都市で証人保護の仕事につくという話。その一人がボイルドであり、最初は気持ちよく異常な能力を使って仕事を片づけているのだが、そのうち悪者にはめられたりして窮地に陥ってしまう。これはあれだなあ。サイボーグ009ですね。良く憶えてはいないのだけれど、とにかくそんな感じ。味方に12人くらいの特殊能力を持った仲間がいて、その人達とそれに相対するこちらも12人くらいの醜悪な悪の軍団が殺し合うという、なんというか非常にわかりやすい男の子漫画の世界。そのなかで不思議なことに主人公が自分の暗闇を見つめだしてしまったりするところは、これは日本的アニメーションの影響か。物語を暗くはしているが、まあすっ飛ばして読んでも大して問題はない。いや、なにが問題ないのか、よく分からないと言えばわからないのだが。文章自体はやたら改行が多く、しかも単語がスラッシュで分節されているという非常に特徴的でもありいらだたしい方法で記述され、これを最後まで腹を立てずに読み通せるか不安だったのだが、意外とすんなり読み通せた。さすが少年劇画の世界だけあって読みやすく残らない。面白かったのかと言えば面白かったのだが、なんだかそれ以上の物ではない。とにかく実験的な文体はそれ以上の物ではなく、少しの新しさはすぐに忘れてしまいそう。ギブソンですら忘れ去られてしまうのだから、スタイルで文章を特徴づけると言うことは極めて難しいことなのだなあと感じるのである。では内容はというと、これがなかなか凡庸な気がしてしまう。やっぱりいくら陰鬱で内向的である種の「深み」がほのめかされてはいても、それは「エヴァ」と同じように基本的には清く正しい少年漫画の世界なんだよなあ。こんな感想を抱いてしまったのは、部分的には作者の自己満足にしか思えない後書きを読まされたせいかもしれない。つまり興醒めでした。