中島らも「こどもの一生」

こどもの一生 (集英社文庫)

こどもの一生 (集英社文庫)

ある種の精神障害の治療のために孤島に集められた成人男女数名は、精神科医の治療の元薬物療法催眠療法で精神的に子どもに返り、それぞれの思考を再構成して行くのだが、そこで行われたいじめの一種で作り出された擬似的人格がなんと現実化して子どもと医者に襲いかかってくるスプラッターホラー。

巻末の自作解説によれば、「執筆中に、大麻所持で逮捕され、二十二日間の拘置所づとめ。保釈されてまたすぐに精神病院への入院。囚われの身の中で、最後の百枚を三日で書き上げた」とのことで、極めて痛々しい内容に仕上がってしまっている。この文章に続けて作者は「誇大妄想狂ではないが、凡百のものを見下す傑作ができたと思っている。ことにラストの百枚は巻措くあたわざるスペクタルだ」とまで述べていて、なんとも中島氏の追いつめられた状況が伝わってきて涙なしには読むこと出来ない。先日友人と話していて、精神病を患った人々の遺稿や作品を研究対象とする病跡学なる学問分野があることを知ったが、本作もその対象となりうるだろう。とにかく文章は粗雑、物語は陳腐、笑いを誘おうとして書かれた文章は全く笑うことが出来ず、これがあの「今夜すべてのバーで」をものした中島氏の文章かと思うと、人の世のはかなさと虚しさに心が鬱々となり悲しい気分にすらなってしまう。これを中島氏の創作として読むことは、むしろ作者に対する冒涜であろう。これはおそらく中島氏の最後の足跡として読むべきなのであり、そこに本作の悲劇的たる一面が意味を持つとしか、考えることが出来ない。