エリザベス・ムーン「栄光への飛翔」

栄光への飛翔 (ハヤカワ文庫SF)

栄光への飛翔 (ハヤカワ文庫SF)

宇宙軍の士官学校で不祥事を起こし退学になった主人公の青年女性は、実家が一大宇宙運送会社のお嬢様で、ほとぼりが冷めるまで僻地へ船を運ぶ仕事を押しつけられるのだが、その道すがら一儲けを企み勝手に仕事を受注して寄り道したところ、戦争に巻き込まれて大変な目に遭う話。

もうどうしても読む本がないため、コテコテのSFでも読もうかと思って手に取った本。なんとも言いようのないタイトルや表紙の装画から判断するに面白ければラッキーくらいの心持ちで読みはじめたのだが、これがなかなか読み応えのある良質な作品でびっくりした。雰囲気としてはマクマスター・ビジョルドのマイルスのシリーズになんとなく近いものがあり、すなわち主人公はある意味万能でもなければ経験があるわけでもないのだが、一方で懸命な判断力と聡明な頭脳を持つという設定、自然非マッチョ思考というか、この作品の場合はある種のフェミニスト的雰囲気もするのであるが、しかし物語の展開自体は主人公が悪人をぶち殺すという極めてマッチョなものであるところも面白い。しかし、物語のリズムと言い訳文の切れの良さと言い、極めてありきたりの設定、物語ではあるのだがそれを成立させている骨組みがしっかりしているので、非常に読みやすく爽快。物語の展開自体は次から次へと困難と解決が立ち現れる、ある種のハリウッド的計算された世界を感じないわけではないものではあるが、リズムがとても良いので不愉快ではなく、むしろとても楽しめる。しかしやっぱりタイトルは謎だなあ。原題はtrading in dangerだから、危ないヤマで一儲けといったところだと思うのだが。やはりこのようなジャンルはこのようなタイトルにならなければならないのだろうか。全然栄光へ飛翔していない物語だと思うのだが。むしろ読者を減らす気がする。