山田風太郎「天国荘奇譚 山田風太郎傑作大全6」

戦前の旧制中学の男の子達が教師に執拗に人糞をなすりつけるいたずらを試みる表題作や、4通の手紙によって綴られた殺人事件の顛末「恋罪」、鶯の鳴き声のようなきしみを発する寝台に込められた意地の悪い復讐譚「寝台物語」、山奥の村に米ソ核戦争が始まったというニュースが伝わる「臨時ニュースを申し上げます」など、不条理な物語を集めた短編集。

JRの某駅には駅前に本屋が2軒あるのだが、大通り沿いのお店には深夜1時まで営業し、加えて絶版本のSFやミステリーが置いてある非常に珍しいお店なのだが、難点は一般書籍の隣や、朝方はなんとその上にまで置かれたポルノ書籍が非常に鬱陶しいことで、しかもその本をどけて下の本を見ようとしたら店主から怒鳴られたこともあり全く良い印象が無く、なるべく立ち寄らないようにしていたのである。しかし、ある日、もう一軒の本屋では探していた本が見つからなかったのでこちらの本屋に渋々出向き、それでも見つからなかったので本棚を漫然と見ていて本書を発見した。明らかに絶版と思われる文庫にちょっとびっくりしてしまい、あわてて周りを見渡すと山田風太郎の書籍がいっぱい。店主はどうやらとても山田風太郎に思い入れがあるらしく、いまでは筑摩の文庫でしか手に入らない物語の数々が、聞いたことも無いような出版社の全集で並んでいるではないか。山田風太郎の明治物を探していろんな本屋をめぐったことを思い出し、こんな事ならばはやくこの本屋に来るのであったとしみじみ感じたのでした。しかも、まだ未読の作品が多い本書をもってレジにいったら、いつもは愛想が極端に悪い本屋のオヤジがうやうやしくカバーを掛け手渡してくれるではないか!ああ、風太郎が好きな人には本当に変人が多いなあと思った次第であります。内容についてはいつもの風太郎で、表題作はあまりのスカトロ趣味がかえって清々しく、「臨時ニュース」は物語の展開が予想はできたが、あまりの度を超えたパニック描写は漂流教室を彷彿させる寒々しい出来でとても良かった。まあ、よくこんな馬鹿馬鹿しい小説を書いたものです。