松尾由美「オランダ水牛の謎 安楽椅子探偵アーチー」

しゃべったり考えたりするアンティーク椅子のアーチーが、持ち主の小学生の男の子とその友人の女の子、そして元の持ち主のおじさんとやりとりをしながら、いろいろな出来事の合理的な説明を考える話。

椅子が安楽椅子探偵という、悪ふざけとしか思えない設定をまじめに書ききった前作がとても楽しかった覚えがあり本作も購入。多少軽めに流している感もあるが、そこはさすが松尾由美氏というべきか、力の抜け具合がかえってこの冗談のような設定を生かしているとも感じられ、あいかわらずとてもよい。物語自体は、エラリー・クイーンの国名シリーズのパロディーか、オランダ水牛、エジプト猫、イギリス雨傘など、国の名前と何らかの関係を持つ事物が鍵となる出来事が起こり、その出来事をアーチーが紐解いて行くという構成で、あまり国名の必要性の感じられないこじつけのような話もあるが、そもそも安楽椅子探偵の椅子が主人公だけあってその程度の不合理さはあまり気にならない。このような短編推理小説って、設定を説明して事件が起こり、その解決編が瞬く間にやって来るという、結構忙しい構成であり、読み終わった後に一生懸命人の名前や設定を理解して、話自体はこんなたいしたことが無い展開かと腹立たしくなることもあるのだが、この小説はあまりそう思うことはなく、かといって展開がたいしたことあるわけでもない。結局のところ、松尾氏の文章のリズムと雰囲気が、その文字を追う事自体に楽しみを与える性質があるということなのか。物凄い傑作だとも特には思いませんでしたが。