道尾秀介「シャドウ」

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

主人公が母を亡くしたと思ったら、父の親友の妻でもあり幼なじみの女の子の母でもある女性が飛び降り自殺をしたり、その幼なじみの女の子が交通事故にあったり、そのダンナが錯乱したり、父もやばそうな雰囲気を漂わせるお話。

趣味が悪いなあ。なんというか、基本的には人間の精神の病理的な側面が見せる異常行動をベースとしたホラーっぽくもあり推理小説っぽくもある作品なんだけれども、そもそも僕は精神病理的な道具立てを物語の道具とすることが好きではない。なんというか、現実味もなければ論理的でもないし、むしろ雰囲気を好き勝手に使用したファンタジーの世界の物語なんだよなあ。だから何が悪いわけもないが、僕には極めて趣味が悪く見える。しかもお話自体は、思わせぶりな記述が思い違いを誘い、最終的に視点をがらりと展開させる事によるはぐらかしの技法を使った、ようは例のそういうあれのお話で、それ自体は別にどうということもないのだが、やはりこの技法は稚気溢れるものとしか言いようが無く、最後に苦笑が溢れてしまうくらいの物語の組み立てでないと、なんだか極めて後味が悪く気分が悪い。確かにね、記述のそこここにああこれは、と思わせる部分もあるのだが、だからといってここまで不愉快な記述をする必要があるのかなあ。別に物語の世界に倫理観を求めるわけでも無いが、読んでいて不愉快になってしまうのはどうしようもない。そう思うとなんだか無性に腹立たしくなり、あれやこれやのあら探しをはじめてしまいたくなってしまう。まあ、そんな本でした。