森福都「双子幻綺行 洛陽城推理譚」

双子幻綺行―洛陽城推理譚

双子幻綺行―洛陽城推理譚

中国の中世、周朝の女帝則天武后に使える宦官の少年とその双子の妹が、宮廷や城下町で起こる様々な怪異を解き明かし、黒々とした権力闘争の場を乗り越えて行く連作短編小説集。

ああ、これは面白い。主人公の一人が宦官の少年であるという設定もなかなかながら、適度に抑制されながらも極めて柔らかく色気のある文章、一方でしっかりと構築された構成の妙が、読む手置くにあたわずともいえる状況をつくりだしすっかりのめり込んでしまった。まあ、しっかりと構成されたミステリというのは、言葉を換えれば粗筋を肉付けしたかのような味気ないものにもなりうるのであろうが、本書に限って言えばミステリ的要素には全く重きが置かれていないというか、ミステリ的ひねりは全く感じられないのでそこは安心である。ほとんど作者が神の手として登場人物を動かし、その範囲に置いて主人公たちが不条理な状況に置き戯れることは決してないので安心して読める。というか、このような雰囲気がやはり森福氏の作品の特徴か。つまり、中国の古典・中世を舞台にした作品には極めて据わりが良く、心地よいのである。以前感じた不必要なまでの性的描写も、最近読んでいるものには全く感じられず安心出来る。でも、何となく卑猥でもあり、そこはそこでまた良い。