フィリップ・リーブ「移動都市」

移動都市 (創元SF文庫)

移動都市 (創元SF文庫)

遠い未来、破滅的な戦争とそれに引き続く文明の崩壊後、都市が車体にのって移動し弱い都市を強い都市が襲って弱肉強食の争いを繰り広げる世界で、技術系ギルドの見習いの少年が、ギルドのボスを暗殺しようとした少女をはずみで助けてしまい、結果ギルドと都市にまつわる陰謀と策略のまっただなかに突き落とされる話。

物語の雰囲気としては、世界の都市が全て「ハウルの動く城」になった世界のお話。なんとも不思議な雰囲気なのだが、これがなかなか面白い。物語は多少ねじくれた少年と少女の邂逅とすれ違いと喧嘩と理解の話で、つまり極めてありふれた青春冒険小説。それ自体でもとてもすばらしいのだが、上述の通り不思議な世界観がこの物語に多少ならずひねりを加えて面白い。物語の構成、文章も質が高く、翻訳も調子よく滑らかではあるが落ち着いていて読みやすい(訳者は安野玲氏)。主人公がもともと暮らす移動都市はロンドンのなれの果てであり、そのためそこここにロンドンの主要建築物の名残が顔をのぞかせるのも面白い。この手の物語は極めて単調な展開になりうる可能性もあるのだが、きちんとある種の肌触りを感じさせることの出来る物語に仕上げているのは、おそらく書き込まれたデティールとうるさすぎない人物描写のためか。続編の翻訳が楽しみだなあ。