竹本健治「ウロボロスの純正音律」

ウロボロスの純正音律

ウロボロスの純正音律

出版社南雲堂の編集者に漫画を書かないかと依頼された竹本健治は喜んで依頼を引き受けたのだが、仕事場として提供された編集者の自宅は洋館、本格ミステリの典型的舞台であり、そこにアシスタントや知り合いの作家を連れ込んで漫画制作作業をはじめた竹本は、シナリオ通り連続殺人事件に遭遇することになる。

一言で言えば楽屋落ちの緊張感の感じられない長編小説。竹本ファンが書いたパスティーシュのような雰囲気もある。同人誌向けに書いたのだろうか。確かに自己言及的でメタ的構成は竹本氏の独特の作風の一部とも言えるのだが、正直これで2800円は痛い出費であった。これは何のために書いたのだろうか。なんだかお仲間作家が楽しく自分たちの事を書かれていることを話題に盛り上がってもらうために、色々な人を出演させて一つの物語を作った、そんな感じ。いつもの竹本的薄暗く自己言及的で、茫漠とした中に黒々とした非現実的な世界をかいま見せてくれる物語構成は、ここにはまったくありません。帯に「知的興奮の極」とあるが、知的も興奮もどこにも感じられない。以前からちょっと気になる漫画的というよりアニメの台本的台詞まわしも本作では過剰に感じられてしまう。これに8年もかけたのか。。やはり正直なところ、作者が楽屋落ち的感覚で楽しく遊びながら書いたのではないだろうか。いくら小栗虫太郎黒死館殺人事件への執拗な言及があるからといって、物語の奥深さが感じられるわけでもなく、西洋音階への言及は奥泉氏の「鳥類学者のファンタジア」を思い起こさせもするが、奥泉氏のような虚構と現実の境目を鋼鉄の意志を持って構築してゆく雰囲気は感じられず、単なるペダンティズムの開陳に終わっているので勢いよく読み飛ばしました。これならば、表紙や挿絵の雰囲気も変え、もっと簡易な装丁で1200円程度の値段に出来なかったのか。ああ、俺は一体何を書いているのか。うう。