京極夏彦「邪魅の雫」

邪魅の雫 (講談社ノベルス)

邪魅の雫 (講談社ノベルス)

江戸川、大磯、平塚で相次いだ殺人事件がなぜか連続殺人だと早々と認定されたことに疑問を持った刑事がいろんな人に意見を聞いてまわる話。

この本に関しては皆さんある程度同じ感想を持ったのではないかと思うが、まずモノとしての出来が悪い。800ページを超える厚さを一冊のノベルズにまとめた結果、ページを開けると真ん中あたりは読みづらく、開きっぱなしにすることもままならない。鞄の中にも納まりが悪く、なぜ二分冊にしなかったのか、当初は理解出来なかったのだが読んでいるうちに理解が出来た。面白くないからだ。以前より京極氏の作品には感じられた傾向ではあるのだが、とにかく物語に関わりのないだらだらとした記述が多い。特に中禅寺の台詞には内容自体に全く意味が感じられず、勢いよく読み飛ばしてしまった。そもそも物語に全く関係ない記述であっても、それ自体が意味が感じられたり面白かったりするのであれば全く読み物とは問題なく、むしろ面白いとは思うのだが、今回に関しては記述自体の質が低いというか、意味が感じられない。部分的には、むしろ極めて質の低い政治・思想的な記述を読まされているような気分になるところもあり、なにか判断力と思考能力を低下させるためのたちの悪い洗脳にかけられているかのような、とても満ち足りた読書体験とはほど遠い経験をすることができた。物語自体も冗長かつ不必要にわかりづらく残念。塗仏の宴は仰天するほど面白かったのだが、なぜこんなことになってしまったのだろうか。