ウィリアム・モール「ハマースミスのうじ虫」

ハマースミスのうじ虫 (創元推理文庫)

ハマースミスのうじ虫 (創元推理文庫)

卑劣な恐喝感を追っかける男はなぜかワイン商で、友人の警官とねちっこく犯人を追いつめ最後は陥れる話。

「ハマースミスのうじ虫」が平積みになっていたのを見て思い出したのは「ハマースミスの野郎ども」という社会科学の古典的名著で、もしかしたらなにか関係あるかも知れないと思ってはいたのだが、購入したのは単にほかに買うものがなかったからでした。しかし、よくみたらこの本が書かれたのは1955年で、社会科学の方は書かれたのが1971年、全く関係がなかった。しかも、よくよく確かめたらタイトルは「ハマータウンの野郎ども」で、そもそも全然関係なかった。。しかもしかも、原題を確かめてみたら「労働者階級の子供はどのようにして労働者階級の仕事に就くのか」という、全然違うタイトルではないか!ずいぶん品がないタイトルにしてしまったものだなあ。それはさておき、本書は結構面白かった。基本的には卑劣な恐喝犯を個人的に義憤に駆られた男が破滅させる話なのだが、極めて悪趣味なところが面白い。解説に述べられているような「フェアプレイ精神とヒューマニズム」なぞどこにも感じられず、追いつめられた獲物を痛めつける、極めて嗜虐的で倒錯的な喜びが感じられ面白い。というか、作者はそもそも正義感やヒューマニズムなどそもそも考えていないのでは無いのだろうか。解説は読みすぎというよりは、あんまり良く読んでいないような感じがする。さすが、大学時代から諜報機関の手先として同級生を売っていた作者だけのことはある、卑劣で卑劣かつ独善的でしかも階級的差別意識まで見えてしまう面白い読み物でした。いや、本当に面白くて、文章や構成もよく、なによりも翻訳がすばらしい。これは新訳なのだが、こういうのを読むとずいぶん昔の話でも、翻訳をし直すことでぐっと読みやすくなる物があるのだろうと思わせる。