森福都「十八面の骰子」

十八面の骰子

十八面の骰子

近世中国を舞台とした連作短編集。若作りの天子の血縁者は、地方役人の腐敗を裁くことのできる権限を天子より与えられ、弁の立つ優男と口うるさい無骨な武芸者を共に各地を秘密裏に練り歩くのだが、そのなかで官吏の不正や連続殺人事件や場草津事件や奇妙な疫病蔓延事件の謎を解く。

講談社の企画物の文庫にこの連作の第一作目、十八面の骰子が収録されていたのを読み、雰囲気の良さと物語の調子の良さにすっかり関心、全て読んでみたくなり購入。全編を通じてとても質の高い作品集でした。森福都氏と言えば、やはり同様の中国もの連作小説を一度読んだことがあるが、その不自然な情念の表現の仕方に辟易し、もう読むことはないだろうと思っていた。しかし、これはずいぶん乾いた雰囲気で、全く違った印象がある。物語自体もずいぶん練り込みが深く、たたみかけるような構成は読み手を飽きさせることなく流れよく結末まで引っ張って行く。本質的には単なる水戸黄門的なお話なのではあるが、むしろ水戸黄門は如何に苦労したかのような視点が面白い。また、その構成を少ない話数の中で巧妙に崩しつつ展開させているところも見事。例えばある話では実家に帰った主人公が義理の兄に冷たくあしらわせる場面から始まったり、ある話では犯人が消失してしまったりなど。文章も流麗ながら簡潔、抑制がきいていてとても読みやすかった。またこの作者で文庫を見つけたら読んでみたいと思うのです。しかし、光文社文庫はなぜ作者の顔写真を背表紙に載せるのか。見たくもないし、また作家の顔など見ても往々にして楽しくないと思うのだが。まあ、どうでも良いのだが。