米澤穂信「ボトルネック」

ボトルネック

ボトルネック

突風にあおられ崖から落ちて死んだとされる友人の死を悼み、現場である東尋坊に来ていた主人公は、突然意識を失ったかと思うと金沢市の自宅周辺にいることに気がつく。家までたどり着いてみるとそこには居るはずのない「姉」が、その存在だけがそっくり自分と入れ替わった環境で存在する。どうやらこれは自分が生まれなかった世界らしいと気づいた主人公は、自分の世界と現在居る世界の差異を調べることで自分の存在意義を確認して行くのだが、不思議なことにどれもがあんまり自分の存在価値を肯定してくれない。

何というか、基本的には悪趣味な残酷小説に連なる作品で、ぼくはとても楽しみました。最終的に救いが無くよくわからないのもとても良い。惜しむらくは文章に華がないというか、ねっとりとしたいやらしさが感じられず、いかにも「ラノベ」的な(ほとんど読んだことはないのでなんとも感覚的であり全く正当でない可能性のある表現なのだが)つらつらと流れよく読み飛ばせてしまうものであったこと。うっかりするとこれは単に青春小説を書こうかと思っていたら筆が滑って滑って、最後はうまくまとまりが着かなくなってしまってこんな結末に落ち着いたのではないか、と勘違いしてしまうかも知れない。しかし、確かにキャラクターは性格付けが不自然であり、何とも典型的で決まり切った物言いや造形で味付けされているが、これはまさに本書が着こうとした物語の核心と、深く関係していると感じるのである。これは、物語を作ると言うことはどのようなことなのか、そしてうっかりその物語を読んでしまうことで、読者はいかなるフィードバックを得ることができるかという事への、果敢な挑戦なのである。短く言えば、結構不愉快な読後感だけど、それを感じさせると言うことはやっぱり書き手の力量だし、それはそれで楽しめました、むしろとても良い作品でしたということです。積極的に他人に勧めようとは思いませんが。