マイクル・Z・リューイン「豹の呼ぶ声」

中年の私立探偵アルバート・サムスンは、世の中のよしなしごとをドーナツに一生懸命説明してしまうようなダメ野郎なのだが、その彼の元に最近世間をお騒がせの爆弾テロリストグループから、設置した爆弾を盗まれたので探してほしいとの依頼が入り、そんなバカなと思いつつも調査をはじめたところ、なんとも切ない顛末が訪れる。

これは良い出来だなあ。いくつかリューインは読んでみたが、これは間違いなくベストの一つ、ということはとてもクオリティが高い作品と言うことなのです。とにかく全ては喜劇じみた展開を見せ、爆弾テロリストは動物の仮面をかぶって現れてみたり、主人公は大金持ちの推理劇の間抜けな探偵を演じる場面から登場したり、感情過多のイギリス人の詩人はアメリカ人を罵倒しながら次々とアメリカ人女性と恋に落ちたり、なんとも狂騒的な展開を見せる。一方で、物語の根幹とも言える爆弾探しは、これもまたリューインらしく実に地味な進展を見せ、主人公はだんだんと笑えない状況に陥っていってしまう。思いの外暗く思い展開の中でちょっと異常な結末が訪れる雰囲気がとても良く、今までよんだリューインの作品とは少し異なった味わいを見せる。ところどころに差し挟まれる主人公のつぶやきは、相変わらず無意味でシニカルで情けないのだが、そのような作者の意図が強く表れた言葉が、嫌味に響かないのがこのシリーズの良いところなのである。当然翻訳者の腕前の問題もあるとは思うのだが。