鳥飼否宇「樹霊」

樹霊 (ミステリ・フロンティア)

樹霊 (ミステリ・フロンティア)

北海道の山奥の村で、神の木と崇め奉られる大木が伐採による崖崩れで移動するという出来事が起き、それを聞きつけた写真家が現地に赴くと、あちらこちらで街路樹が何者かによって動かされるという出来事が発生、そうこうしているうちに行方不明者が表れたかと思うと事故とも事件ともつかぬ状況で人が死ぬ。

言わずと知れた最近最も質が高くノリの良い変態探偵小説作家鳥飼否宇氏の新作。氏の真骨頂は「昆虫探偵」「本格的」「痙攣的」そして「逆説探偵」と続く、まるで推理小説を馬鹿にしたかのような、痛快きわまりない脱構築と倒錯の世界だと思うのだが、そんなことを考えながら文庫化された「中空」を再読したら、あれっと思うほど手応えがないというか、残る物がなく切れ味がないなあと感じたことを憶えている。残念ながら本作にもその雰囲気はあり、ある意味古典的な謎と謎解きの世界なのだが、これまた古典的に謎自体にそれほど意味も面白味も感じられない、ある意味無味閑散としたまるで「本格推理」小説のような後味だった。このテイストは編集者の要望なのだろうか。同じ「ミステリ・フロンティア」シリーズならば、前作の「太陽と戦慄」の方がよっぽどフロンティアを感じさせてくれて良い作品だったのだが。物語もきちんと破綻していたし。