マイクル・Z・リューイン「夜勤刑事」

夜勤刑事 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

夜勤刑事 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

あまり詳しくは語られない理由で夜勤専門の刑事を続けるパウダー警部補は、若い女性が殺され指をつぶされるという殺人が続いたことに目をつけ捜査をはじめるのだが、強引な方法と傍若無人で一般的には性格が悪いとされる対人関係の構築方法が災いし、あらゆるところで怒りと怨嗟の声が湧き上がる。そんなことにはおかまいもせず、パウダー警部補はなぜか彼の所に毛沢東思想を説明しに来た高校生の抱えるガールフレンド失踪事件に手を貸してやり、昼間は借りた畑の世話にいそしみ、奥さんとはほぼ絶縁並びに離婚関係に有りながら、仲良くなった女性にときめきを憶え、事件は凄惨な連続殺人事件に発展する。

なんというか、嫌味でしつこく、失敗もしてしまうのだけれど、実は有能であり心優しく、厭世的と言うよりはむしろ世の中に上手くなじめないタイプの中年男性を描くこのシリーズは、それだけでとても魅力的な訳なのです。私立探偵サムスンのシリーズとは異なり、軽妙な軽口、すなわち一人称的モノローグのはすっかり影を潜め、むしろダイアローグの積み重ねで構築される本シリーズの世界は、正直言って名前を覚えるのが大変であったり、本作に限って言えば多少訳文に硬いところがあり取っつきにくいと言えばにくいのだが、しかしそれでも充分以上に楽しめるところはさすがの出来なのである。物語の根幹であるはずの殺人事件はなんだかよく分からない収束を見せるのだが、そのアンバランスさも結構面白かった。