リチャード・マシスン「奇術師の密室」

奇術師の密室 (扶桑社ミステリー)

奇術師の密室 (扶桑社ミステリー)

脱出系の奇術を失敗、植物人間状態になった父が、自分の後を継いでマジシャンになった息子の奇妙な犯罪を見せつけられる話。

いったいどのような作家なのか全く分からないのだが、各所で紹介されていたため購入、これがなかなかの秀作でした。基本的には読者の期待を欺きながらも期待以上の結果を見せつける、作家の腕自慢のような作品なのだが、その割にはいやらしさも白々しさもなく直球勝負の展開と結末、ある程度読み進んだ際に感じたある種の馬鹿馬鹿しさは物語が千鳥足のような展開を見せるに連れ消えてゆき、作家の作り上げたパノラマを、その角度は見えなくて首が痛いんだよと思いつつも(これは本当にそんな気分がしてくるのです)、すっかり楽しむことが出来た。物語自体は軽く教訓もなければ残るないも無いが(念のために言えば別にそんな物を求めているわけでも無い)、技量とセンスの良さ、さらには所々に感じられる作者の諧謔に溢れた意地の悪い記述がすばらしい。