マイクル・Z・リューイン「沈黙のセールスマン」

沈黙のセールスマン (ハヤカワ・ミステリ文庫)

沈黙のセールスマン (ハヤカワ・ミステリ文庫)

相変わらず定収入源が見つからない私立探偵サムスンのもとに、弟が研究所の爆発事故で負傷したのに病院が面会を許してくれないのでなんとかしてくれとの依頼が。その依頼を引き受け調査を進めるうちに、多方面から様々な事情がわき出し事態は異常な進展を見せ始める。しかし、依然として負傷した弟には近づけず、依頼人すら移り変わり、そうこうするうちにまたもや大がかりな事件に巻き込まれ、最小限の拳銃の撃ち合いに立ち会うことになってしまう。

「A型の女」を読んでちょっとこの作者は苦手かなあと思ったのだが、こちらで絶賛されているのでこんなはずは無いと思い、裏表紙に「シリーズの人気を決定づけた傑作」とあった本作を購入、これは最近行った判断の中でも珍しく賢明で妥当な判断であった。前作に感じられた嫌味と臭みのある自己憐憫的雰囲気は影を潜め、むしろダメ人間がそのダメさを自覚しつつどうしようもならない、極めてダメな感覚が言葉の端々に表れていて非常に共感出来る。人の好意を後になって気がつき後悔したり、判断を誤ったことに深く傷つき呆然とした午後を過ごしてしまうところは、読んでいてなかなか爽快ですらある。物語自体はトリッキーな構成で、そもそも何が事件で何が発端であったのか、最後まで読むとあれれと思うような感じもあるが、突然現れた主人公の実の娘の存在のせいか、なにかあまり深く考えずに、物語の雰囲気を楽しめばいいやと思うことができた。しかし、やはりこのシリーズの僕にとっての魅力は文章にある。なにか落ち着いて盛り上がりのない雰囲気の中で主人公と登場人物達が淡々と笑えない冗談を言い合う感じは最高。このシリーズはおそらく全部読んでしまうのだろうなあ。