マイクル・Z・リューイン「A型の女」

A型の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

A型の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

暇で暇な私立探偵アルバート・サムスンのもとに、自分の生物学上の父を捜してくれと少女が依頼に。その依頼を進めるうちに、事態は少女の思惑を超えて進展し、過去の犯罪を図らずも明らかにしてしまう。

某所で紹介されていたためとりあえずシリーズの最初の作品から。率直な感想を言えばあんまり良いとは思えず、今後もこの人の作品を読むかどうかは微妙な感じだった。物語自体の展開は極めて流れよく、しかも構築的で無理がない。始めは少女に依頼された仕事がなにか大きな疑問と隠蔽された事実を探り出してしまった後には、非常に強引な気もするが探偵は独自に調査を積み重ね始め、最終的に一家を離散に追いやりかねない悲劇的な状況を現出させる。このあたりの物語の組み立て方はさすがの腕前である。しかし、何とも気持ちが悪かったのは、これは探偵の一人称、つまりモノローグで語られる物語なのだが、そこで差し挟まれる探偵のこれ見よがしな独り言の座りの悪さなのである。なんとも自己憐憫的かつ偽悪的な、男の「ロマンス」を体現する「ハードボイルド」的表現の横溢には正直げんなり。主人公の暴力に対する逃げ腰無し性もなんだかわざとらしい。文章と物語が達者なだけにとても残念でした。しかも、原題は「Ask The Right Question」ですよ。これを「A型の女」としてしまう編集者の感覚にとてもついて行くことが出来ない。