山田風太郎「エドの舞踏会 山田風太郎明治小説全集8」

井上馨伊藤博文山県有朋など、明治の大物政治家の妻とその過去、そしてそれらの人々の捲き起こす事件の数々に焦点をあてて綴った連作短編集。めちゃくちゃおもしろくてびっくり。

明治シリーズの一連の作品から考えると、外伝的というか手慰み的色物短編集かと思い手に取ることが遅れていたのだが、立ち寄った書店にたまたま並んでいたので購入、愕然とする面白さでした。山田風太郎氏の小説に共通する特徴として、どこまでがオーソライズされた「史実」であり、どこからが氏の「創作」なのか、判然としないまでにないまぜとなった物語の構築だと思うのだが(そしてそれは、極めて意図的に操作され、いわゆる「史実」というもののオーソリティを揺さぶる企みだと思うのだが)、本作ではその意匠が心ゆくまで張り巡らされ、非常に精緻で巧妙な物語が展開される。僕は、明治の高官達の伴侶とした女性の多くが本当に花街からの女性であったのか、そしてその私生活においてかように心悩ましい出来事が起こっていたのか、全く知識も無く知る気も無い。しかし、本作にはそのような想像を働かせようと思う気にもならないくらい、力強い物語が展開される。それは、山田氏の作劇法には、いわゆる「歴史」を裏側から、もしくは全く今まで想像もしなかった角度から見させてくれるような、そしてそのためにいわゆる「歴史」感が裏返り、非常に頼りなく危なっかしいものだと感じさせるような感覚に襲われる、それはそれはものすごい力があるからなのである。いい作品でした。