ドン・ウィンズロウ「砂漠で溺れるわけにはいかない」

砂漠で溺れるわけにはいかない (創元推理文庫)

砂漠で溺れるわけにはいかない (創元推理文庫)

結婚式を目前に控えた相方が突然熱烈に子作りへの要求を激化させるという危機的状況の中、元ストリートキッズのニールはラスヴェガスから86歳の元コメディアンを連れ戻すという簡単な依頼を受ける。ところが元コメディアンはあの手この手でニールから逃れようとする。その理由がどうやら保険金搾取の企みと関連しているらしいと分かるまもなく、ニールは拳銃を突きつけられ、婚約者はコメディアンの愛人とドイツ人に拳銃を突きつけられながらインターステイト15番を南下する羽目になる。

ついこの間「ウォータースライドをのぼれ」が出たばっかりだと思っていたのだが、ずいぶん迅速にシリーズの続編が。と思ったらこれがシリーズ最終作らしい。原書は1年に一冊のペースで出ていたらしいが、翻訳は13年かかったとのこと。そういえば第一作の「ストリート・キッズ」はほぼオンタイムに読んでいた覚えがある。ずいぶんながいこと読んでみたものだ。しかし、それはそれなり以上にこのシリーズが力強いからであって、本作も今まで同様やたら面白い。物語の雰囲気は今までとはがらりと変わり、なんともコメディータッチというか、勢いの良さと言葉の巧みさだけで読ませる展開、物語の前半4分の一くらいは無駄に冗長な台詞回しが続きなんともうんざりしたが、事態が展開をはじめるやいなや予想もしなかった勢いで事件は展開し、あっという間に終結する。この、なんとも切ない終わり方や元コメディアンの愛すべきキャラクター、そして全編にみなぎり猥雑でかつ滑りとリズムの良い言葉遣いは、近頃感じたことのない爽快感を感じました。翻訳も秀逸、というか絶品。これでシリーズが終わってしまうのは残念。朝倉めぐみ氏の表紙も相変わらず素敵です。