ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「愛はさだめ、さだめは死」

SF短編集。エイリアンがワシントンにやってきて微妙な大騒動を捲き起こす話や、すばらしい異星人とコンタクトを採ってしまってから人間が醜く見えるようになってしまった悲劇的男性の話や、コネで宇宙探検隊に参加した男が周囲の貴族的雰囲気になじめないまま重大な発見をする話や、疫病をまき散らして死んだ博士の話や、未来からやってきた女の話や、接続された女の話や、そんな感じの話。

おかしいなあ、以前読んだ時は結構衝撃的だと思ったのだが、今読んだら全然面白くない。この原因の一つは明らかに翻訳の文章にあると思われる。とにかくぎこちなく、無駄に、かつ無理に「現代的」で、その読者にこびた「現代的」訳文が瞬く間に陳腐化し、今や目も当てられない文章となって目の前に表れる。「接続された女」はその典型で、おそらく原文では「You」と読者に呼びかけるような言葉遣いがされているのだろうが、訳文では「オタク」。そのほかにも「最高のカワイコちゃん」やら「バッチリ!」やら「ヤケルよ、これは」やら、いまいち意味の分からない言葉が頻出する。この違和感は何なのだろうか。黒丸氏によるギブソンの訳は、これもそれなりにポップな言葉遣いでびっくりした覚えがあるのだが、ここまで経年変化を感じさせる物ではなかったはずだ。また、表題作は物語自体が全然面白くない。ヒューゴーネビュラ賞受賞作には気をつけた方が良いというのは以前からの感想だが、これもその傾向にぴったりはまっている。一番面白かったのは、解説に書いてあった著者のバックグラウンドで、色々と不思議な職場を転々としていたということは知ってはいたが、病気で寝たきりになった夫を射殺し、自分も自殺したという顛末はびっくりした。おもしろいなあ。