ロイス・マクマスター・ビジョルド「メモリー 上・下」

メモリー 上 (創元SF文庫)

メモリー 上 (創元SF文庫)

メモリー 下 (創元SF文庫)

メモリー 下 (創元SF文庫)

大宇宙帝国の貴族の息子マイルズは虚弱体質でいつでも死にそうな人だったのだが、なぜか傭兵軍団を指揮する独立宇宙軍の総督としての顔も持つ。その彼が心から恐れつつ慕う帝国スパイ団の大ボスイリヤンは、頭に埋め込まれたチップのおかげで映像をのこらず記憶するという特技を持つのだが、ある日そのチップが故障、認知症的症状が頻発する。この原因を解き明かすうちに、なんともお粗末な権力闘争が明らかになるはなし。

懐かしいなあ。ビジョルドといえば「自由軌道」で度肝を抜かれ、「名誉のかけら」や「戦士志願」、「無限の境界」など、よむものことごとく面白い。そのうちにこの人の面白さというのは、構築された面白さと言うよりは読者が望む物をはいどうぞ、と差し出す能力にあるとは思うようになったのだが、それでもある程度の品と品質を保っているから不愉快ではない。本作も、非常に僕の読みたいと思うツボをぐいぐい突いてくる物語でとても好感が持てました。シリーズも長くなると登場人物のつながりや関係がやたら冗長になり、なんとも憶える気をなくす名字やどうでもよい人間関係の描写の羅列には興醒めだが、幸い上下2冊組なのでその辺はすっ飛ばしてもボリューム的には問題ない。相変わらず主人公の自己憐憫具合や、基本的には恵まれた人のみが登場し恵まれた環境のなかでどうでも良い悩みや日常を送る寒気のするような設定も、まあ、そういうものだと納得すれば読み通すことが出来ないわけでもない。とにかく、上下二巻の大作でありながら、ここまで読み手を引っ張る牽引力は大したものです。なんだか全体としての物語は崩壊をむかえつつある気もするが。