山田正紀「カオスコープ」

カオスコープ (創元クライム・クラブ)

カオスコープ (創元クライム・クラブ)

自分が集中治療室にいる場面をなぜか俯瞰しながら見ている男は、とぎれとぎれの意識の中で自分の父親が殺されている場面に遭遇する。一方で、その混濁した意識の中に表れる刑事は、不思議な事件を追いつつある男が収納されている病院に潜入する。

最近の山田正紀氏の作風は、なにかホラーじみたサイコスリラー的な物が多いように見受けられるように思えるのだが、本作もその流れをくむもので、なにがなんだかさっぱり分からない。断片的なイメージの挿入と茫漠とした物語の構築のされかたはさすが山田正紀氏と言うべき物があるのだが、なんともうやむやに終わってしまう物語自体が精緻に構築されていたと後書きで告白されてしまうと、なんとも面白くないというかがっかりというか。むしろ、何も考えずに闇雲に書いてしまったら何となく物語の結末があらわれてきて、それでも多少のつじつまの合わない部分が残ってしまってごめんなさいと言われた方が、すっきりするのだが。とにかく、なんだか最近の山田氏の文章は、過分にスタイリッシュであろうとしすぎている気がしてなんだか痛々しい。むしろ、どんなにかっこつけようとしても、なんだかとっても泥臭く、しかし猥雑で単純な力強さに溢れていたころの文章の方が好きであったし、いまでもそのような文章を書けると思うのだが。