マイケル・ムアコック「額の宝石 ルーンの杖秘録1」

中世ヨーロッパを地理的な舞台とし、剣とともに魔法が戦争に利用されている世界を描いた話。暗黒帝国の拡大に唯一屈することなく独立を維持している国に、暗黒帝国に滅ぼされ捕虜となったある国の講釈が額に特殊な宝石を埋め込まれある種の遠隔操作のもとに送り込まれるのだが、それからいろいろあるぞと言う話。

これは素直に読めて面白かったです。エルリックシリーズはどうもぼんやりしていてとらえどころがないというか、どうでも良いと思われる思わせぶりで大仰な記述が多くのめり込めなかったのだが、これは素直に勧善懲悪、水戸黄門的予定調和の世界が展開されとても読みやすい。また、物語の作り込みとガジェットもなかなか手が込んでいてとても良い。なぜ、敵の軍団が豚やカマキリのお面を装着しているのか全く分からないし、ダースベイダーみたいな悪者も出てくるが、気分はけっこう盛り上がる。主人公も意外とひねくれた性格で、額の宝石を除去してくれる能力を持つ唯一の魔法使いがあまりやる気のない態度を示すと、かっとなって殺してしまおうかなどと考えてしまうところは面白い。ただ、話が進むに連れ描写の密度が薄まり、やたらと勢いよく物語が展開して行くのは、もしかしたら作者が面倒くさくなってしまったのかと多少感じた。この流れがこの後のシリーズにも続くようだと、ちょっと厳しいかも知れない。しかし、異常者集団である「暗黒帝国」が地理的には大英帝国であるのはなんだか楽しいな。