芦辺拓「千一夜館の殺人」

千一夜の館の殺人 (カッパ・ノベルス)

千一夜の館の殺人 (カッパ・ノベルス)

100億円の遺産を相続した兄弟が次々に惨殺されるはなし。

今月のカッパ・ノベルスは若竹七海氏、霞流一氏、そしてこの芦辺拓氏と、大物作家三人の新作がラインナップされとても豪華。若竹氏と霞氏は当然読むとして、本作に関しては別に読まなくても良いかとは思ったが、なんとなく淡い期待を胸に購入してみた。結果は予想通りとてもつまらない。何作か前から非常に気になるようになっていたのだが、なんとも話し言葉新居和漢がありとても心穏やかに読み進むことが出来ない。物語自体は、江戸川乱歩的世界へのオマージュなのであろうかやたら大げさで、かつ登場人物の性格も子供が見ても悪い人と悪くない人が色分け出来るような親切設計、ギミックも大仰でわかりやすい。しかし、不気味なのはその子ども向けの世界に、日本産汎用OSの使用に対するアメリカの横やりへの極めて保守的な言及がなされていたり、どう考えても不必要としか思えないRSA暗号の解説が挟まれていたりと、非常にちぐはぐな印象を残す。しかも、起こる事件は「物語性」と言うよりはむしろ大量虐殺事件の記録を読まされているかのようでなんだか気持ちが悪い。ある種の悪趣味さと物語の破綻の様を楽しむにはとても良いテキストかも知れない。そもそもね、某作家の館シリーズもそうだけど、緻密な平面図に意趣をこらす作品って、興醒めなんだよなあ。推理小説の配置図といえば、不思議な線で描かれた、よくみてもなんだか分からないくらいの見取り図でなくては。それでなければ文章で全てを説明するくらいの力強さがほしいなあ。そういえば、茶室の水屋の扉が開かない理由には脱力感を通り越して馬鹿馬鹿しくなってしまった。