若竹七海「猫島ハウスの騒動」

猫島ハウスの騒動 (カッパ・ノベルス)

猫島ハウスの騒動 (カッパ・ノベルス)

江ノ島近辺を舞台とする架空の島「猫島」、そこは干潮ならば対岸から浅瀬を歩いてわたってくることができるくらいの距離に位置する小さな島なのだが、そこにはその名の通り猫がごろごろ生息し、島の中央にある神社とその参道沿いに位置する店舗や民宿は、全て猫を見にやってくる旅行客をターゲットとして存在している。そんな島で、ある日ナイフが突き立てられた猫の置物が発見され、時を置かずして事故か殺人かどちらとも取れるような事件が散発しはじめる。

久しぶりに、何を読んでもしっかりとした文章と構成力を感じさせてくれる、これぞ実力はと思わせてくれる人の新刊が出ていたので即購入、あいかわらずとても質が高く文章を目で追うだけで楽しい。この作家が猫が好きだった(もしかしたら嫌いかも知れないが)とはしらかなったが、全編猫にまみれた、猫アディクトな感じがしてとても良い。猫を好きな人々はある種の狂気を楽しんでいるのかとも思うが、本編に登場する人々も何となく狂気に犯されているのが、またこの作家らしくてとてもよい。若竹氏と言えば、「コージーミステリ」と呼ばれながら(自分で呼んでいるわけでは無いと思うが)主人公を虐待するのが大好きで、しかも結末はいつもなんとなく皮肉にもの悲しい物が多い、ぜんぜんコージーでない作家なので本作も多少身構えながら読んだが、今回はなんだかとても素直で心温まる結末を用意してくれていた。一人だけ、ずいぶんと虐待される登場人物が出てきて、最後は病院であまり素敵ではない上司のお見舞いを受けてしまったりしているが、まあ、これもある種のハッピーエンドだろう。というわけでとても面白かった。これくらいの実績もある実力派になると、不思議と手を抜きだして雰囲気だけの面白くない作品を書き出す例が最近散見されてとても悲しいのだが、若竹氏にはそのような傾向は全く見えず、相変わらず全力投球されているのがとても心強い。