アルフレッド・ベスター「分解された男」

分解された男 (創元SF文庫)

分解された男 (創元SF文庫)

24世紀、心を読んだり発信したりすることの出来るエスパーがある種の社会的ステータスと権力となった時代、超大手企業の親分が、ライバル会社のなぞめいた親玉を殺害する。その親分をエスパー刑事が追いつめるのだが、社長はあの手この手で妨害し、二人の壮絶な闘いが繰り広げられる。

1953年に出版されたものなので、53年前の小説と言うことになる。さすがに53年前に想像された未来は異常な雰囲気がみなぎり、なんとも奇妙な感覚に襲われた。世界観は未来世紀ブラジル的シュールな感じで、今読むとむしろ80年代的ポップな感じがするのも不思議である。しかし、この本の最大の見所は翻訳にある。これがまた、よくまあ問題にならなかったと思うくらいに、常軌を逸した翻訳なのです。登場人物はべらんめい口調でしゃべるかと思えば(「べらぼうめ!」とかね)、差し挟まれる警句はなんとも日本的(「濡れ手で粟のつかみ取り」とか、「一両、二両」なんて単位が平気で使われる)、おそらく原文の雰囲気とは似てもにつかぬものになっているに違いない。ここまで調子が良いと、文章のスタイルだけではなく、内容もずいぶん手が加えられているのではないかと気になってたまらない。とにかく怪訳、なかなか面白い経験でした。物語自体は普通。面白いんじゃないでしょうか。少なくとも、いろんな意味で読んで損は無い。