エリック・マコーマック「隠し部屋を査察して」

隠し部屋を査察して (創元推理文庫)

隠し部屋を査察して (創元推理文庫)

怪奇幻想短編集。どことも知れぬ山奥の渓谷で、物凄い物を作り出してしまったが故に監禁される人々と監禁する人々、そして両者を査察する人々が、なぜか入り交じりはじめる様子を描いた表題作を始め、探検隊の隊員の悪趣味な打ち明け話「パタゴニアの悲しい話」、炭鉱事故のためみんな一本足になってしまった「一本脚の男たち」、明るい妹と暗い兄の秘密「エドワードとジョージナ」、理不尽に事物を切断する<刈り跡>が世界を一周するはなし「刈り跡」など。

ずいぶんひねくれた話ばかりで、雰囲気としては日影丈吉とか、生々しいバラードみたいな感じがした。一時期幻想文学と呼ばれる小説も読んでいたことはあるが、いつのころからかさっぱり読まなくなり、それはなぜかと考えてみると、どうも物語としてのまとまりの無さ、結局の所完成度の低さが気になったからだと思うのだが、本作はずいぶん楽しんだ。どのはなしも危うく物語がぼろぼろ解体してしまいそうな危うさに満ちてはいるのだが、不思議と最後にはしっかりとまとめられ、落ちがつく。ただ、おそらくこの人の特色はなんと言っても静かな中に充満したグロテスクな描写で、部分的にはなんともついて行けなくなる嫌な気分がしたが、こういう嫌な気分になる小説は大好きなのでとても良かった。悪趣味な内容をとても洗練した方法でまとめ上げた作品集。稲垣足穂ほど洗練されているわけではないが。マルキ・ド・サドほど悪趣味でもない。