はやみねかおる「そして五人がいなくなる」

三つ子姉妹の新しい隣人は自称「名探偵」のダメ人間で、テーマパークで起こった少年少女失踪事件に呼ばれていないのに首をつっこみ、さんざん警察をバカにしたあげく何もせずに終わる。

はやみねかおるという人はミステリーランドの「ぼくと未来屋の夏」をよんでちょっと感心してしまい、その後「僕と先輩のマジカルライフ」を読んでますます感心した。でも結局この二本しか読んだことは無く、ほかのほとんどの作品が講談社青い鳥文庫で出版されているのであんまり縁がないなあと思っていたのだ、このたび青い鳥文庫で出版されたシリーズが講談社文庫で再版され始め、あまりにもはずかしい表紙にもめげず手に取った。内容はある程度子ども向けだがそれほどでもなく、ミステリーランド的な、「少年少女向け探偵小説」へのオマージュとも言える雰囲気が横溢しており、やはり子ども向け江戸川乱歩の探偵小説に漬かりきった読書体験を持つ僕にはとても楽しかった。物語自体は当然探偵小説な訳ですから、あからさまの予定調和がむしろ前面に押し出され、犯人もトリックもあったものでは無いが、しかしこの筋をすっかり分かった上で読む進む作業は、なにか読者参加的な楽しみもある。かと思いきや、物語冒頭で突然主人公の三つ子少女が小栗虫太郎の「完全犯罪」について口走ったりして、それはそれで悶絶しそうになった。少女に生きてゆくのに必要なものは何かと問われた「名探偵」夢水清志朗が「本と、それを寝転んで読むためのソファー、それだけだね」と答えると、少女が「夢水清志朗に常識は無い」とメモするのがおかしかった。