ジャニータ・シェリダン「翡翠の家」

翡翠の家 (創元推理文庫)

翡翠の家 (創元推理文庫)

ホノルルからニューヨークにやってきた女性は明日住む家に困り、ルームシェアの応募をしたところ即日中国系女性から応答があり、即決で入居。ところが入居した家は不思議な人々の住む一軒家で、はなからなんだか不穏な空気が漂い、すぐさまルームメイトが不審人物に殴打される事件が起こる。そうこうしているうちに管理人の死体が見つかり、誰が殺したのか、疑心暗鬼の中で奇妙な共同生活が展開される。

帯には「コージー・ミステリ新シリーズ開幕!」とあるが、ちっともコージーじゃない。なんとも殺伐とした雰囲気の中に切れ味の鋭い事件が立て続けに置き、これはむしろスリラーとも言える雰囲気が感じられた。でも、とても面白かった。舞台は1940年代末、第二次世界大戦終結後のニューヨークで、チャイナタウンや主人公が向かう美容院、そして同居人達の生活に、なにか生々しい時代の感覚が描かれ、とても新鮮。執筆されたのが1949年なのであたりまえとも思えるが、今や古典とも言える時代の作品としては、なにか瑞々しく、その時代の雰囲気が立ち上ってくるような描写の豊かさがある。物語自体も、なにか戦後の混乱期の中で起こった事件という様相を見せ、中井英夫的な時代感を感じさせるものの、しかし中井英夫的な陰鬱で(趣味的に)暗い世界を形作るのではなく、なにか明るく楽天的で、現実に立ち向かおうとする主人公や同居人達の姿が極めて印象的に描かれる。全然コージーではなかったけど、気持ちの良い作品でした。解説で著者の経歴を見たら、これまた凄い。本作の主人公同様ホノルルから都会に移り住み、とんでもない苦労をしながらキャリアを重ね、祖母に預けていた子供を引き取って移り住もうと思ったら祖母から反対にあい、それでも強引に子供を引き取ったら祖母から誘拐と訴えられFBIに追われる羽目になる。そんな人が書いた小説だから、こんなに強くて明るいのか。なかなか生々しくて良い。翻訳もとても良いです。